【診療概要】
出生前の胎児から15歳までの小児の一般外科的疾患を幅広く診療します。 我が国の小児外科医が所属する日本小児外科学会では小児外科医の診療能力に応じて認定資格を作り、 小児外科専門医および小児外科専門医を養成する小児外科指導医を認定しています。 平成25年末現在では小児外科指導医は少なく250名余りですが、多くは大都会にて勤務し特に四国では極端に少なく7名のみであります。 小児には小児特有の疾患と病態があり、成人外科医が片手間で診療するものではありません。小児外科専門医が診療すべきです。
【対象疾患】
●頭部・顔面
耳前瘻孔、副耳、血管腫、外傷
●口、口腔
舌小帯短縮症、舌咬症、口唇粘液嚢胞
●頸部
正中頸嚢胞、側頸嚢胞、梨状窩瘻、リンパ管腫、血管腫、脂肪芽腫
(特に、側頸嚢胞の一部では直径3mmの傷で全摘出します。
梨状窩瘻では頸部を切開せずに口側から化学的焼灼で治療します。)
●胸壁
皮下腫瘤、乳腺嚢瘤・腫瘤
●縦隔
縦隔腫瘍、縦隔気腫
●呼吸器
肺嚢胞性疾患、肺分画症、肺芽腫、気道異物
●横隔膜
横隔膜ヘルニア、横隔膜挙上症、食道裂孔ヘルニア
●食道
食道異物、胃食道逆流症、食道閉鎖症、食道狭窄症
●消化管
消化管異物、胃・十二指腸潰瘍、胃穿孔、肥厚性幽門狭窄症、胃軸捻転症、腸閉塞症、腸回転異常症、
腸重積症、メッケル憩室症、腸管重複症、十二指腸閉鎖症、腸閉鎖症、急性虫垂炎、腸炎、
消化管ポリープ、ヒルシュスプルング病、SMA症候群
●肛門
鎖肛、肛門周囲膿瘍、裂肛、痔瘻
●肝臓・胆道・膵臓・脾臓
肝腫瘍、胆石症、胆道拡張症、胆道閉鎖症、胆嚢炎、膵炎、膵嚢胞、脾嚢胞
●腹壁・臍部
臍ヘルニア、臍突出症、白線ヘルニア、臍帯ヘルニア、腹壁破裂、臍肉芽、尿膜管遺残、臍腸管遺残
(特に、乳児の臍ヘルニアは絆創膏固定にてほとんどを短期間で治癒できます。)
●鼠径部
鼠径ヘルニア・嵌頓、陰嚢・精索水瘤、ヌック水瘤
●泌尿生殖器
水腎症、腎腫瘍、膀胱腸裂
男児:停留精巣、精巣軸捻転、精巣上体炎、精巣腫瘍、尿道下裂、尿道憩室、正中縫線嚢胞、包茎・嵌頓
女児:処女膜閉鎖、AGS症候群、陰唇癒合、陰唇裂傷、傍尿道嚢胞、卵巣嚢腫・軸捻転、奇形腫
●四肢
血管腫、リンパ管腫、皮下腫瘤、脂肪芽腫、石灰化上皮腫、肘内障、外傷
【診療方針】
手術は治療の最後の手段である。手術を行なう際にはできるだけ侵襲を少なくする術式を工夫している。 特に、露出する機会の多い頸部の瘻孔を有する疾患について新しい術式を考案し実践している。 また、乳児の臍ヘルニアを絆創膏固定にて早期に良好な形態で治癒する事に努めている。
【乳児臍ヘルニアの診療方針】
臍ヘルニアを早期に整復絆創膏圧迫固定する。1週間に1回程度の外来受診となる。
合併症がなければ一般に1ヶ月余りで 99% 治癒する。臍輪の閉鎖をもって治癒とする。
治癒時の臍の形態は個人差が大きい。固定中の合併症の発生は極めて稀である。
大きいヘルニアでは固定期間が長くなり、醜形を残し易い。40年間以上、2,000例以上の治療経験がある。
【四国中央病院 乳児臍ヘルニア症例 結果】
期間:2013,5 - 2016,11 (3年7ヶ月) 全症例数:160例 (男児 88例、女児 72例) |
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固定施行症例 (149例) | 非固定症例 (11例) |
138例:治癒 (無•合併症、男73•女65) 治療期間: 38.8±19.1日 固定回数: 5.8±2.3回 |
10例:拒否 (4例)、自己中断 (6例) |
1例:経過観察、自然治癒 | |
1例:治癒 生後7ヶ月以上 2例;治癒 低出生体重児1,500g以下 3例:治癒 固定後自己中断、固定再開 4例:治癒 アトピー性皮膚炎 |
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1例:非治癒、手術 |
【絆創膏圧迫固定法の主な論文】
1998 日本小児外科学会誌 大塩猛人
小児の臍ヘルニア篏頓の手術経験
2002 日本小児外科学会誌 大塩猛人
乳児の臍ヘルニアに対する治療法についての比較検討
2006 小児科診療 大塩猛人
乳児の臍ヘルニアに対する絆創膏固定法による保存的療法
2011 日本小児外科学会誌 大塩猛人
本邦における乳幼児臍ヘルニアの診療方針に対するアンケート調査報告
2017 日本小児外科学会誌 大塩猛人
乳児臍ヘルニア絆創膏圧迫固定中の細菌増殖による皮膚炎の発生防止法について
【当科の下咽頭梨状窩瘻に対する治療方針】
前頸部の切開する事なく治癒させる方針としている。
初回発症時に抗生剤投与を行い切開排膿を避ける。
診断を確定させる。
炎症が収まった時点にてトリクロール酢酸による焼灼を行なう。
入院し全身麻酔下に瘻管内にトリクロール酢酸を注入する。
ほぼ全ての瘻管およびその入口周囲を焼灼して閉鎖する。
焼灼により閉鎖に成功すれば前頸部切開根治術が避けられる。
なお、焼灼が成功しなければ焼灼を繰り返すことになる。
【下咽頭梨状窩瘻に関する論文と発表】
論文
2011年 小児外科 大塩猛人
下咽頭梨状窩瘻に対する化学的焼灼術による外科的摘出術の回避について
発表
2011年 日本小児外科学会雑誌 大塩猛人
下咽頭梨状窩瘻に対する化学的焼灼術による外科的摘出術の回避について
2011年 日本小児外科学会雑誌 大塩猛人
下咽頭梨状窩瘻に対する内視鏡下化学的焼灼術の経験
2013 年日本小児外科学会雑誌 大塩猛人
梨状窩瘻に対するトリクロール酢酸焼灼術
2016年 日本小児外科手術手技•内視鏡外科研究会 大塩猛人
早期診断により外科的処置なくして治癒が期待される左下咽頭梨状窩瘻の症例
なお、本焼灼法は大塩によって考案された新治療法である。
【当科の完全型側頸瘻の治療方針】
頸部は露出する機会が多く大きな手術創痕は望ましくない。
前頸部の瘻孔開口部に直径約3mmの小切開のみで瘻管を全摘出する。
全身麻酔下に瘻孔開口部からナイロン糸を挿入して口側に通す。
このナイロン糸に小さなガーゼ球を結びつける。
頸部側から牽引すると瘻管の長さが約半分となる。
頸部瘻孔開口部に小さな切開をおいてナイロン糸を牽引し瘻管のみを摘出する。
口側の瘻孔開口部を縫合閉鎖する。
術後の手術創痕は極めて小さい。
論 文
小児外科 大塩猛人
側頸瘻に対するナイロン糸挿入ガイド下手術
2005 J Pediatr Surg T. Oshio
A new fistulectomy method for the second pharyngeal arch remnants
2006 外科治療 大塩猛人
先天性頸部瘻孔および嚢胞
2006 小児外科 大塩猛人
側頸瘻摘出術
2011 耳鼻咽喉科•頭頸部外科 大塩猛人
完全型側頸瘻に対するナイロン糸ガイド下摘出術
なお、本術式は大塩によって考案された治療法である。